『ツィンバロンは本当に輸入が大変なのか』 ワシントン条約と実体験からの正しいイメージ
はじめに:ツィンバロン奏者として伝えたいこと
こんにちは。ツィンバロン奏者の斉藤浩です。
僕はこれまでに、ツィンバロンを3台、ハンマーダルシマーを2台、揚琴を1台、
自分の責任で日本に迎え入れてきました。
そのどの場面でも、税関でワシントン条約について指摘されたことは一度もありません。
インターネット上では、ツィンバロンを含む打弦楽器の輸入について
「ワシントン条約でとても大変」「個人では危ない」といった話も目にします。
ですが、ツィンバロン奏者としての経験から言えば、
そうしたイメージは、少し現実とかけ離れていると感じています。
この文章では、ワシントン条約の基本と、私自身の輸入経験をもとに
「ツィンバロンを始めてみたい方の心を萎えさせない」形で、
できるだけ正確な情報をお伝えします。
ワシントン条約は「楽器そのもの」を規制していない
まず前提として、ワシントン条約は「楽器」を狙い撃ちにした条約ではありません。
経済産業省や環境省の説明によると、ワシントン条約は
「絶滅のおそれのある野生動植物の一定の種が、過度な国際取引で利用されないように保護すること」
を目的とした条約です。(meti.go.jp)
ここで重要なのは
・規制されるのは「動植物の種」と、その「部分・製品」
・つまり、問題になるのは「どんな素材を使っているか」であって
「どんな種類の楽器か」そのものではない
という点です。
税関も、ワシントン条約で規制され得るものとして
「生きた動植物」だけでなく「革製品・化粧品・楽器・漢方薬などの加工品」も挙げていますが、
あくまで「それらの中に対象の動植物が含まれる場合があるから」という整理です。(customs.go.jp)
一般的なツィンバロンの木材は、ほぼ条約と無縁
では、ツィンバロンにとって何が問題になるのでしょうか。
ワシントン条約でよく話題になるのは、例えば次のような素材です。(meti.go.jp)
・象牙やべっ甲、一部の希少な貝類
・ワニやニシキヘビなど爬虫類の革
・ブラジリアンローズウッドなど、条約附属書に載っている銘木の一部
一方、ツィンバロンの典型的な仕様を見てみると、主な材料は
・音板にスプルースなどの針葉樹
・枠や側板に一般的な広葉樹
・弦や金具などの金属部品
といった、ごく普通の楽器用材が中心です。
僕がこれまで輸入した
ツィンバロン3台、ハンマーダルシマー2台、揚琴1台についても、
いずれも象牙やべっ甲、爬虫類革、ブラジリアンローズウッドのような
「いかにもワシントン条約で問題になりそうな素材」は使われていませんでした。
結果として、通関の現場で
・インボイスに「musical instrument」「cimbalom」「hammered dulcimer」「yangqin」など
・金額と数量、送り主と受取人が通常どおり記載されている
という以上のことを求められたことはありません。
税関から「ワシントン条約は?」と聞かれたことも、一度もありません。
それでも条約が本当に関係してくるのはどんな時か
では、ワシントン条約が本気で関係してくるのはどんな場合でしょうか。
経産省の案内では
「ワシントン条約附属書に掲載されている種を使った楽器を輸出入する場合、原則としてCITES許可書などが必要」
とされています。(meti.go.jp)
つまり、次のようなときです。
・象牙やべっ甲を用いた鍵飾りやインレイが明らかに付いている
・ブラジリアンローズウッドなど、附属書Ⅰの木材を指板や装飾に使っている
・ワニ革やニシキヘビ革のパーツやケースがセットになっている
このような場合には、確かに
・輸出国側でCITES輸出許可書を取得し
・日本側でも輸入承認などの手続きが必要になる
という、条約由来のハードルが現実に存在します。(meti.go.jp)
しかし、一般的なツィンバロンの仕様や、現在の主なメーカーの傾向を踏まえると、こうした「条約対象素材てんこ盛りの個体」は、かなり特殊な例だと考えてよいでしょう。
個人輸入したい方が押さえておけば十分なポイント
これからツィンバロンや類似の打弦楽器を個人輸入したい方が、
ワシントン条約のことで過度に怖がる必要はありません。
僕自身の経験と、現在の日本の公式情報を踏まえると、
次のポイントだけ押さえておけば十分です。(customs.go.jp)
インボイスについて
・品名は「musical instrument」「cimbalom」「hammered dulcimer」「yangqin」など、楽器であることが分かる表現にしてもらう
・数量・価格・発送元・受取人などの基本情報を正確に書いてもらう
・必要に応じて、メーカーサイトの仕様ページや、使用材が分かるメールを保存しておく
素材について
・特殊な希少材や象牙・べっ甲・爬虫類革などを「わざわざ指定して」使わない限り、条約はまず関係ない
・もし販売側が「エキゾチックウッド」「希少材」などと宣伝している場合は、
それが条約対象種かどうかだけ、事前に確認する
不安なときの相談先
・「これは条約の対象になる素材かどうか分からない」と感じたときは、
税関か経済産業省の窓口に、事前に仕様を伝えて相談することができる
ここまで準備しておけば、ツィンバロンの輸入で
「知らないうちにワシントン条約にひっかかって、楽器が没収される」
というような事態になる可能性は、きわめて低いはずです。
これからツィンバロンを手に入れたい方へ
ツィンバロンに惹かれて、初めて自分の楽器を持とうとしている方にとって、
法律や条約の話は、それだけで気持ちの重いテーマかもしれません。
しかし、ツィンバロン奏者として
ツィンバロン3台、ハンマーダルシマー2台、揚琴1台を実際に輸入してきた立場から率直に言えば、
・一般的な仕様のツィンバロンであれば、輸入の難しさは「普通の木製楽器」と同じくらい
・ワシントン条約は、特殊な素材を使うごく一部のケースでだけ、本当に問題になる
・必要以上に怖がるより、基本的なルールだけ押さえて、一歩踏み出してみてほしい
というのが、今のところの結論です。
ツィンバロンは、書類や条約よりも、実際に音を出して向き合う時間のほうが、はるかに大変で、そして楽しい楽器です。
これからこの楽器を迎えたい方にとって、今回のこの文章が少しでも
「やってみよう」という気持ちの後押しになれば幸いです。
2026年7月11日
ツィンバロン・ディプロマーシュ
斉藤 浩
これから買って僕に習いたい方へ
これからツィンバロンを手に入れて、僕のところで学んでみたいと思っている方へ。
ツィンバロンの輸入は、インターネット上で言われているほど「特別に危険で、とびぬけて大変なこと」ではない、というのが今のところの僕の実感です。
これまでにツィンバロンを3台、ハンマーダルシマーを2台、揚琴を1台、日本に迎えましたが、
そのどの場面でも、税関でワシントン条約について問題を指摘されたことは一度もありませんでした。
大事なのは「どんな楽器か」よりも「どんな素材を使っているか」という点を、落ち着いて確認しておくことだと思います。
一般的な仕様のツィンバロンであれば、きちんとしたインボイスと基本的な手続きを踏めば、日本に迎え入れられるケースがほとんどです。
もし将来、あなたがツィンバロンを購入して「斉藤浩から直接、ツィンバロンを習ってみたい」と思ってくださったときには、
楽器の選び方や輸入の進め方も含めて、レッスンの中で一緒に考えていけたらうれしいです。
ツィンバロンを手に入れたその先の音や音楽を、ゆっくり育てていきましょう。
僕の後を継いで、日本で正統なツィンバロン文化を一緒に発信して下さる方が増えていくことが僕の夢です。